「おんなのことば」 茨木のり子
以前何年間か書店で働いていた時期があって、たまにお客さんに、お勧めの本はありませんか、と尋ねられる事があった。
滅多に無い事だったが、書店員としての腕の見せ所でもあり、勧めた本が購入されていくと嬉しい気持ちになった。
ある時、棚の整理をしていると、若い活発そうな男性に、お勧めの詩集は有りますか、と聞かれた。
あまり詩集を買いそうに無いタイプの男性に見えたが、会話をするうちに、入院している友人の為に贈りたいのだと教えてくれた。
あまり詩集には詳しく無かったが、取り敢えず、昔から母が好きだった金子みすゞの詩集を勧めてみた。
自宅にも有った、「わたしと小鳥とすずと」という本で、私自身も気に入って、何度か読んだ事があった。
だが男性の好みには合わなかったようだ。
そこで当時平台に並べていた、茨木のり子の詩集を、これも面白いですよ、と渡してみた。
「自分の感受性くらい」というタイトルの、有名なフレーズで終る詩を読んで貰った。
男性は、
成る程、面白いですね、とちっともそう思っていない表情で感想を言った。
結局、何も買わずに彼が帰った後、
何を勧めれば良かったのかなあ、と思ったのを覚えている。
これで合っているのかどうか判らないけれど、自分の詩の読み方は、気に入ったフレーズがあるかどうかだ。
おんなのことば、という詩も、全部が全部好きな訳じゃなく、いくつかのお気に入りの箇所がある。
「子供たちには
ありったけの物語を話してきかせよう
やがてどんな運命でも
ドッジボールのように受けとめられるように」
(「おんなのことば」茨木のり子)
ここを何で気に入ったのか判らないけれど、何かの時にふっと思い出す。
詩人ってこうして、人のこころにことばを残せていくのだから、凄いなあ。
こっちを彼に勧めれば良かったのかな?